the other side 8

The other side of urban city life
リリース記念対談
HAPPYSAD ×JEFFREY YAMADA
第八回「運のいい人」

草野:20世紀の過去の世界って、みんな自由を夢見て
当時の抑圧的な政権を打倒するべく革命を起こすわけじゃないですか。
それで結局、その打倒した人が何をするかっていうと、
独裁者になる。
そういう世界的な歴史の流れがありましたよね。
その良し悪しは色んな見方が出来るのだと思うんですよ。

山田:それはつまり、つくりたいものをつくるということだよね。
それを現代の企業に置きかえると、偉い人達が自分の会社や
組織というものをまさにデザインしているわけ。「クリエイティブ・クラスの世紀」という本は読んだ?今はネット環境も普及しているし、個々のクリエイターが自由に独立しそうなんだけど、そうではなく逆にネット環境が普及すればするほど、人はそこに出かけていって群れて一緒に住んでしまう、という話。

草野:へえー。

山田:そう思った時に、僕も普段仕事をずっとやっているんだけど、これもまったくクリエイティブなことだと思っているわけ。自分のチームに十人くらい人がいるんだけど、これを「十人の部下をどうマネージメントするか」って思ったら、すごくつまらなくなってしまうわけよ。

草野:なるほど。

山田:でもこれを十人のバンドメンバーで活動してるって見ると違ってくる。
「山田さんのところ十人いるけど、みんなをちゃんと管理してるの?
みんな自由そうにしてるけど」とか言われるんだけど。本当放っておいてくれと(笑)うちバンドだからさ、練習来ないやつもいるし。でも、最後にグッとくるものをつくればいいんでしょ?っていう。

草野:僕もその通りだと思います(笑)
バンドっていう考え方の方がみんな救われると
思うんですけどね。一方で「全員ある程度同じことを出来なければならない」という考えの人もいるわけじゃないですか。

山田:僕もそういう時期ありましたよ(笑)
でも、マインドを変えた瞬間に面白くなる。心の中で、俺は今バンドをやってるんだとか、
何かをクリエイトしてるんだとか思った瞬間にさ、つまんないことにこだわってる場合じゃねえだろというのがある。それを教えてくれたのはスティーヴ・ジョブズだったね。

草野:ああー。

山田:あの人は仕事っていうものにまったく違う価値観を持ってきて。
だから僕は仕事ずっと続いているんだよ。

草野:面白いですね。仕事をバンドで言い換えるなら、ベース弾ける人はドラム叩ける必要ないし、ドラム叩ける人は別にベース弾けなくてもいい。それぞれに足りないところを補い合えばいい。

山田:そうそう。出来たものでグッとくればいいわけでしょ。単価いくらとか、安いとか高いとかの世界に行っちゃうとさ、インドには勝てるわけないわけよ。ベトナムとかカンボジアの人とかさ、一日の給料10円でも仕事するわけだからさ。そこで我々がどうやって原価下げるかとか、安くするかって言っても勝てない。彼等はそれで食っていけるわけだから。

草野:ええ。

山田:だったら何やるんだって言ったときに、
結局我々は真っ白な紙に最初の筆を入れるとかさ。
そこでいくくらいしかない。

草野:全体のデザインをどうするか、ということですね。

山田:そう。じゃあデザインをどうするかっていうと、デザインてさ、こうだったらいいデザインとか悪いデザインとか本当は有り得ないじゃん?
音をこうしてつなげればヒットするとかさ。そんなのものはあるわけなくてさ。

草野:はい。

山田:仕事でもそうだよね。一人一人が才能があって、コミュニケーションがあって、そんな最高の組織が最高の仕事をするかっていうと、全然別の話だよね。音楽でもさ、スタジオミュージシャンを集めればクオリティの高いものができるかも知れないけど、人の心を動かすっていう面でみるとそれはまた別の話だよね。

草野:本当そうですね。

山田:そう考えると、僕は頭をうまく切り替えられたのかなとか思う。
だからヒラヒラしながら、フラフラしながらもやってる(笑)

草野:山田さんはいい上司をやってる気がしますね(笑)

山田:演じるとは言わないまでも、結果を出すためには言わなきゃいけない
ことを言わなきゃいけなかったりさ。
ま、でも言わないけどね。「まあ、いいんじゃなーい?」とか言って、
「いいよ、僕怒られるわ」とか、ひらひらひらと(笑)

草野:(笑)
プライベートで音楽をやって、
仕事といい具合のバランスもとってますよね。

山田:そう。でも、自分がそういうことをやっているからといって、
「俺には違う世界があるんだ」とか「お前らにはわからないだろう」
とかは思わない。

草野:そうじゃないですよね、山田さんは。

山田:どこかの定年退職の人で、最後に自分の荷物を人事部に返却する時にさ「お前らは本当に最後まで俺の才能を見抜けなかったな」なんて言う人もいてさ。お前の才能ってなんなんだよ?って思うよね(笑)

草野:その人はなんで自分のボールをどこかに拾いに行かないんでしょうかね。

山田:やっぱり、いいなって思う人ってまずは受け入れるじゃん。

草野:あと、自分の主張を行動でしっかりと示しますよね。
その人は定年まで会社いないで辞めるという選択肢も
 あったでしょう。

山田:そう。今はそういう人もいるけどさ。
それとは逆に自分でボールを探しに行く人達もいたわけだよね。明治維新とか、あるいは司馬遼太郎の”坂の上の雲”の時代ってさ、「誰を大将にするか」って大事じゃない?普通の考え方だと、その人の能力で大将を決めるよね。
あいつは作戦の立て方がうまいとか、人望があるとかさ。

草野:ええ。

山田:でもその頃の日本ってさ、能力の高いやつなんて沢山いるわけ。
それでも、誰かを大将に決めなければならない。
日本軍とロシア軍が戦う時に、東郷平八郎という人が大将に
任命されたの。彼はバルチック艦隊を破ってヒーローになる人なんだけども。何故その人が任命されたかっていうと、「運」だったっていう話がある。「あいつは運のいい男です」っていう。

草野:すごいですね(笑)

山田:最後は運になっちゃうわけ。
僕はその話を昔聞いていて思ったの。そうか運かと。
つまり、ギターでいうなら、どれだけ美しいメロディを素早く弾けるとかさ、最速で曲のコピーができるとかさ、まあそういうギターの上手い人って世の中ごまんといると。
でも、運の強いやつってそんないない。東郷平八郎は信じられないくらい運が強い、
だから彼を大将にしようっていうことになった。

草野:ははは(笑)

山田:僕はその話に強い印象を受けたの。
で、ある時、中国の古典をずっと研究している先生にその話を
しに行った。先生が言うには「運が強いのには理由がある」のだと。運が強いっていうのは、たまたま運がいいってことではないと。運がいい=物事が上手くいくことだよね。
物事が上手くいくってことは、どう考えても人間一人じゃ
上手くいかないから、周りが助けてくれているんだろうと。

草野:なるほど!

山田:で、周りが助けてくれるってことは、どうして助けてくれるかっていうと、その人がいかに誠実であるかどうかなんだって。はたから見ると「あいつはいつも運が強いんだよな」って言うんだけども、本当に運が強い人っていうのは、周りが助けてくれるから成功する確率が高い。日本がバルチック艦隊を破った時っていうのは、あっちの航路をとるか、こっちの航路を行くかっていうのが、戦いの明暗を分けたんだよね。それってまったく理屈じゃない部分がある。
運が強いっていうのは、人徳を積んでいるということなんだね。

草野:我々も徳を積まなきゃですね(笑)

山田:そう思うと、普段何の仕事をしているとか、何をやってるとか、
全然関係ないんだよね。

草野:本当そうですよね。

山田:自分が大きい会社に行こうが、小さい会社で働こうが、
ギター弾こうが、サラリーマンやろうが、アメリカ行こうが関係ない。
もちろんやりたい事はやりたいけれども、そうではない所で
「もののスジ」をつかめばさ。そういう目で見ると物事は面白く見えるわけよ。

草野:音がどうとか、っていう表面のことではなくてですよね。

山田:点数を付けられるものではないからね。

草野:色の違いみたいなものですよね。
赤でも、青でも、緑でも、価値に違いはない。
ただ、進んでいるベクトルが異なるだけ。大きな山があって、それをどの方角から登っていくかという違いなだけで、登る山は同じというような。今、目の前に見えている風景が物事の全てではないんだ、という話ですね。きっとこれはどんなことにも置き換えられる話なんでしょうね。

対談第九回に続きます