Bedroom Recordings

Bedroom Recordings

ベッドルームで録音した、様々な音楽スタイルで描かれた風景。
「Bedroom Recordings」2014/12/29 out

ブリティッシュ・ロック、60’sポップス、フリーソウル、チルウェイブ、
アンビエント、ボサノヴァ、アブストラクト/トリップホップ、ネオソウル、
ゲーム・ミュージック、映画サウンドトラック等、様々な音楽スタイルを吸収しながら
音で描かれた風景をお楽しみ下さい。

(収録曲)
1.Sometimes I feel wonder 2.Singing in the sun
3.Sweet soul 4.Change 5.Sleeping beauty 6.Melt away 7.See 8.Summer vacation 9.Toy in the box 10.Loop life 11.In the bedroom 12.Draw 13.Not at all 14.Into the deep sea 15.Afternoon dream 16.Leave from yesterday   (全16曲)

All music by HAPPYSAD
(guest musician : Shinta Miyazaki on bass track2 “Singing in the sun”)

楽曲試聴ページ

[ライナーノーツ] 文:Jeffrey yamada

インターネット&コミュニケーションのテクノロジーが進化し、浸透すればするほど、私たちの行動や意識の指向は両極化がすすむ。
ひとつは時間や空間をこえたボーダーレスな世界。それによって経済社会がシフトチェンジする様子はトーマス・フリードマンが2005年に「The World is Flat:フラット化する世界」として語り、世間の周知するところとなった。
そしてもうひとつはさらに半世紀さかのぼってマーシャル・マクルーハンが予見した「グローバル・ヴィレッジ」化。部族的基盤をもった集合的アイデンティティへの移行、同士がネットワークを経由して集まり村落化していく。

両極化とはいえ、規制するものから解放された時に起こるアイデンティティの拡散と集合はループしている。強引さは承知の上で、その光景が自分にとってのDTM (Desktop Music)の大きな魅力と感じている昨今。HAPPY SADから届いた「Bedroom Recordings」に耳を傾けてみる。

シングルとして先行リリースされた “Sometimes I Feel Wonder” はブリットロック / バンドサウンドへのこだわりを前面に打ち出した、疾走感あふれる近年の代表作のひとつだろう。60s バブルガムポップサウンドを彷彿とさせる “Singing in the Sun”、様々なジャンルの音楽から得たインスピレーションをキャンバスに描いたかの”Sweet Soul”はポップ職人としてのあざやかなお手並み。

チルウェイブなイントロが印象的な”Change”から本アルバムは深く内省的な表情を見せ始める。浮遊感あるアンビエントなスペースに突然刻み込まれる歪んだギターがボーダーレスな世界観の “Sleeping Beauty”、シネマチックな”Melt Away”。ブラジリアン・ミュージック、ボッサのエキゾチックなリズムを存分にいかした”See”、さらにガットギターのサウンドが心地よい”Summer Vacation”をつなげたシークエンスにもこだわりを感じる。”Toy in the Box”は2分半に満たない短さでありながら物語の展開を想像させるドラマチックなナンバー。

シングルリリースされた”Loop Life”はそのテーマからも本アルバムの中核をなす作品と認識している。丁寧に重ねられコラージュされたサウンドが時にドラマチックな転調を経てリスナーに何かを鋭く問いかけてくる。坂本龍一へのリスペクトを公言するHAPPY SADではあるが、自分が感じる共通した部分は、あえてアジア人が再構築するアジアのインプレッション。それは “In the Bedroom”、そしてさらにエスニックなテイストを加味したサウンドトラック “Draw”に顕著に感じる。エレクトリックピアノのサウンドは街を演出する重要なキャラクターであり、そのこだわりを実験的に見せてくれる ビートニックなタイトルの”Not At All”眼前にテーマとした海の碧さがイメージされる “Into the Deep Sea”。リスナーのイマジネーションを挑戦的なアプローチで刺激するサウンドコラージュ的作品”Afternoon Dream” は、Happy Sad をモチベートするアーティスト、フライング・ロータスの影響が色濃い。そして、きわめて個性的な作品集である本アルバムは小品”Leave from Yesterday”でおだやかに幕を閉じる。

「スタジオでなく、ふつうの家、部屋、ベッドルームで作られた音楽ときくと、僕たちは耳をピクリと動かす。それは音楽を聞く時、僕たちもまた同じ空間にいるからだ(鈴木惣一郎:2001年)」。

HAPPY SADの魅力は、これに加えて「その窓を開けると思い切り広がる大地に海、都市空間、そして吹き込んでくる風」を感じること。様々な価値観がうずまく現在という時代を、心の窓からながめてみた、そんな情景がこのアルバムに綴られているのかもしれない。

(Jeffrey Yamada)

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Jeffrey Yamada プロフィール

音楽評論家。
ルーツミュージックからR&B、ポップス、パンクまで「社会の必然(と偶然)」から生まれた音楽とその背景についての探求をテーマとして活動を続ける。過去の出稿は「アコースティックギターミュージック名盤350」(音楽出版社)、「モンドミュージック」(アスペクト)、「アートオブフォーキーズ」(音楽之友)、「Martin D-28 という伝説」(えい出版)など。

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